企業不正のさばき方

企業不正の『裁き方』(法令、ガイドライン、裁判例、調査報告書等の解説)と『捌き方』(不祥事の予防・検知・対応に役立つ考え方や理論)をご紹介するブログです。記事内の意見は全て個人の見解です。

コーポレートガバナンス・コード⑥〜基本原則3:適切な情報開示と透明性の確保〜

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ

1 コーポレートガバナンス・コードの基本原則3の概要

 

コーポレートガバナンス・コードは前文及び5つの基本原則に加えて、各基本原則に紐づく原則及び補充原則から成り立っています。前文及び5つの基本原則は以下の記事で全文引用しています。

 

コーポレートガバナンス・コード①〜What's this?〜

crisismanager.hatenablog.com

 

コーポレートガバナンス・コード

www.jpx.co.jp

 

今回取り上げる基本原則3の趣旨をそのまま以下に貼り付けています。

 

* * *

第3章 適切な情報開示と透明性の確保

 

上場会社は、会社の財政状態・経営成績等の財務情報や、経営戦略・経営課題、リスクやガバナンスに係る情報等の非財務情報について、法令に基づく開示を適切に行うとともに、法令に基づく開示以外の情報提供にも主体的に取り組むべきである。

その際、取締役会は、開示・提供される情報が株主との間で建設的な対話を行う上での基盤となることも踏まえ、そうした情報(とりわけ非財務情報)が、正確で利用者にとって分かりやすく、情報として有用性の高いものとなるようにすべきである。

 

考え方

 

上場会社には、様々な情報を開示することが求められている。これらの情報が法令に基づき適時適切に開示されることは、投資家保護や資本市場の信頼性確保の観点から不可欠の要請であり、取締役会・監査役監査役会・外部会計監査人は、この点に関し財務情報に係る内部統制体制の適切な整備をはじめとする重要な責務を負っている。

また、上場会社は、法令に基づく開示以外の情報提供にも主体的に取り組むべきである。

更に、我が国の上場会社による情報開示は、計表等については、様式・作成要領などが詳細に定められており比較可能性に優れている一方で、会社の財政状態、経営戦略、リスク、ガバナンスや社会・環境問題に関する事項(いわゆるESG要素)などについて説明等を行ういわゆる非財務情報を巡っては、ひな型的な記述や具体性を欠く記述となっており付加価値に乏しい場合が少なくない、との指摘もある。取締役会は、こうした情報を含め、開示・提供される情報が可能な限り利用者にとって有益な記載となるよう積極的に関与を行う必要がある。

法令に基づく開示であれそれ以外の場合であれ、適切な情報の開示・提供は、上場会社の外側にいて情報の非対称性の下におかれている株主等のステークホルダーと認識を共有し、その理解を得るための有力な手段となり得るものであり、「『責任ある機関投資家』の諸原則《日本版スチュワードシップ・コード》」を踏まえた建設的な対話にも資するものである。 

 

【原則3-1.情報開示の充実】

上場会社は、法令に基づく開示を適切に行うことに加え、会社の意思決定の透明性・公正性を確保し、実効的なコーポレートガバナンスを実現するとの観点から、(本コードの各原則において開示を求めている事項のほか、)以下の事項について開示し、主体的な情報発信を行うべきである。

(i) 会社の目指すところ(経営理念等)や経営戦略、経営計画

(ii) 本コードのそれぞれの原則を踏まえた、コーポレートガバナンスに関する基本的な考え方と基本方針

(iii)取締役会が経営陣幹部・取締役の報酬を決定するに当たっての方針と手続

(iv) 取締役会が経営陣幹部の選解任と取締役・監査役候補の指名を行うに当たっての方針と手続

(v) 取締役会が上記(iv)を踏まえて経営陣幹部の選解任と取締役・監査役候補の指名を行う際の、個々の選解任・指名についての説明

 

補充原則

3-1① 上記の情報の開示(法令に基づく開示を含む)に当たって、取締役会は、ひな型的な記述や具体性を欠く記述を避け、利用者にとって付加価値の高い記載となるようにすべきである。

3-1② 上場会社は、自社の株主における海外投資家等の比率も踏まえ、合理的な範囲において、英語での情報の開示・提供を進めるべきである。

 

【原則3-2.外部会計監査人】

外部会計監査人及び上場会社は、外部会計監査人が株主・投資家に対して責務を負っていることを認識し、適正な監査の確保に向けて適切な対応を行うべきである。

 

補充原則

 

3-2① 監査役会は、少なくとも下記の対応を行うべきである。

(i) 外部会計監査人候補を適切に選定し外部会計監査人を適切に評価するための基準の策定

(ii) 外部会計監査人に求められる独立性と専門性を有しているか否かについての確認

 

3-2② 取締役会及び監査役会は、少なくとも下記の対応を行うべきである。

(i) 高品質な監査を可能とする十分な監査時間の確保

(ii) 外部会計監査人からCEO・CFO等の経営陣幹部へのアクセス(面談等)の確保

(iii)外部会計監査人と監査役(監査役会への出席を含む)、内部監査部門や社外取締役との十分な連携の確保

(iv) 外部会計監査人が不正を発見し適切な対応を求めた場合や、不備・問題点を指摘した場合の会社側の対応体制の確立

* * *(引用終わり)

f:id:CrisisManager:20200622002319j:plain

 

2 情報開示の充実(原則3-1)

 

(1) 情報開示は言うまでもなく重要 

 

コーポレート・ガバナンスの重要な目的の1つが経営陣の暴走を抑止することにある以上、経営陣の会社経営に関する情報を開示することが経営陣の成果や姿勢をチェックする前提として重要であるということは火を見るより明らかです。

 

日本取引所の不祥事対応のプリンシプルが「迅速かつ適切な情報開示」を求めているのも、情報が出てこないと実態が把握できない、実態が把握できないと不祥事対応の適切性が判断できないというロジックが背後に存在すると考えられ、根っこの部分はコーポレート・ガバナンスの情報開示の重要性に通底していると言えましょう。

 

■不祥事対応のプリンシプル⑥〜原則4:情報開示の難しさの根源〜

crisismanager.hatenablog.com

 

(2) 法令に基づく開示

 

原則3-1では、開示すべき情報につき、「財務情報と非財務情報」、「法令に基づく開示と法令に基づかない開示」という2つの軸で分類しています。

これを纏めると、以下の4パターンとなります。

①法令に基づく財務情報の開示

②法令に基づく非財務情報の開示

③法令に基づかない財務情報の開示

④法令に基づかない非財務情報の開示

 

金融商品取引法等の法令により、上場会社が行わなければならない開示のルールは詳細に規定されています。企業法務や投資に関わっている方であれば、有価証券報告書や有価証券届出書等を想像すれば、いかに詳細な開示が必要かお分かりになると思います。

 

原則3の「考え方」には、「上場会社には、様々な情報を開示することが求められている。これらの情報が法令に基づき適時適切に開示されることは、投資家保護や資本市場の信頼性確保の観点から不可欠の要請であり、取締役会・監査役監査役会・外部会計監査人は、この点に関し財務情報に係る内部統制体制の適切な整備をはじめとする重要な責務を負っている。」と記載されていますが、財務情報等の適時かつ正確な開示をするための体制を整備することの重要性は言うまでもないことでしょう。

 

なお、コーポレートガバナンス自体に関する情報についても、東京証券取引所の有価証券上場規程等を根拠規定として、「コーポレートガバナンス報告書」という形で開示が求められています。

 

コーポレートガバナンス報告書

www.jpx.co.jp

 

(3) 法令に基づかない開示

 

法令に基づく開示については、金融商品取引法等の要請する情報開示を粛々と行うことが必要となりますが、法令の基づかない開示については会社の自由度が高く、会社のコーポレートガバナンスへの姿勢が色濃く現れる部分となります。

 

コーポレートガバナンスコンプライアンスに関する他の議論にも応用可能ですが、法令に基づくことはやって当たり前であり、法令に基づかないことを自社の方針としてどの程度取り組むかが、会社のアピールポイントとなり得ます。

 

特に、原則3の「考え方」で「我が国の上場会社による情報開示は、計表等については、様式・作成要領などが詳細に定められており比較可能性に優れている一方で、会社の財政状態、経営戦略、リスク、ガバナンスや社会・環境問題に関する事項(いわゆるESG要素)などについて説明等を行ういわゆる非財務情報を巡っては、ひな型的な記述や具体性を欠く記述となっており付加価値に乏しい場合が少なくない、との指摘もある。取締役会は、こうした情報を含め、開示・提供される情報が可能な限り利用者にとって有益な記載となるよう積極的に関与を行う必要がある。」と指摘される現状では、「上場会社の外側にいて情報の非対称性の下におかれている株主等のステークホルダーと認識を共有し、その理解を得る」ために、様々な情報を開示することは一層重要と言えそうです。

 

なお、上記引用の下線部は、2018年6月1日の本コードの改訂で加わった部分ですが、これはリスク、ガバナンス、ESG要素などの情報開示の重要性が一層認識されるようになったことの証左かと思います。

 

法令に基づかない開示として、原則3-1は、以下の事項を開示して主体的な情報発信を行うべき旨を示しています。

 

(i) 会社の目指すところ(経営理念等)や経営戦略、経営計画

(ii) 本コードのそれぞれの原則を踏まえた、コーポレートガバナンスに関する基本的な考え方と基本方針

(iii)取締役会が経営陣幹部・取締役の報酬を決定するに当たっての方針と手続

(iv) 取締役会が経営陣幹部の選解任と取締役・監査役候補の指名を行うに当たっての方針と手続

(v) 取締役会が上記(iv)を踏まえて経営陣幹部の選任と取締役・監査役候補の指名を行う際の、個々の選任・指名についての説明

 

経営陣の解任についての説明は、原則4-3②③とともに2018年6月1日の本コードの改訂で加わった部分です。改訂で「解任」が加わった理由に関するパブリック・コメントに対しては、「CEOがその機能を十分に発揮していないと認められる場合にはCEOを解任できる仕組みを整えておくことが重要であるとの指摘がなされたことを踏まえ、補充原則4-3③を新設し、CEOを解任するための客観性・適時性・透明性ある手続の確立を求めることとしたものです。」、「CEOの解任は、上場会社の業績等の評価や経営環境の変化等を踏まえ、硬直的な運用によることなく、機動的に行うことが求められるところ、補充原則4-3③において求められている『客観性・適時性・透明性ある手続』の『適時性』には、そうした対応を可能とするとの趣旨が含まれるものと考えます。こうした手続が実効的なものとなっているかどうかについては、対話ガイドライン3-4の趣旨を踏まえ、投資家と上場会社との間で建設的な対話が行われることが期待されます。」、「こうした手続等について、投資家と上場会社との間で対話が十分に行われることに資するよう、原則3-1を改訂し、取締役会が経営陣幹部の解任を行うに当たっての方針と手続を新たに開示すべき事項の対象とし、上場会社において、主体的に情報発信を行うことを求めています。」との考え方が示されています。

 

コーポレートガバナンス・コード改訂に関するパブリック・コメント

www.jpx.co.jp

  

3 外部会計監査人(原則3-2)

 

原則3-2では、外部会計監査人の株主・投資家に対する責務が示されるとともに、補充原則において監査役会及び取締役会が外部会計監査人に関して行うべき対応を列記しています。

 

外部会計監査人による会計士監査は、監査役監査・内部監査とともに「三様監査」の一角をなす重要なモニタリングの仕組みです。

 

日本公認会計士協会 「公認会計士監査とは」

jicpa.or.jp

 

■Nextleap 用語解説(三様監査)

www.nextleap.co.jp

 

監査=モニタリングは、不正を発見するという機能のみならず、監視カメラのような「モニタリングの不正予防機能」も併せ持つコーポレートガバナンスを支える重要な仕組みです。原則3-2はそのことを確認的に規定するとともに、監査役会や取締役会が果たすべき役割を明記した点に意義があると考えられます。

 

■不祥事予防のプリンシプル④〜原則2:経営陣と監査・監督機関のミッション〜

crisismanager.hatenablog.com