企業不正のさばき方

企業不正の『裁き方』(法令、ガイドライン、裁判例、調査報告書等の解説)と『捌き方』(不祥事の予防・検知・対応に役立つ考え方や理論)をご紹介するブログです。記事内の意見は全て個人の見解です。

コーポレートガバナンス・コード⑦〜基本原則4:取締役会等の責務/その1 (取締役・取締役会)〜

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ

1 コーポレートガバナンス・コードの基本原則4の概要

 

コーポレートガバナンス・コードは前文及び5つの基本原則に加えて、各基本原則に紐づく原則及び補充原則から成り立っています。前文及び5つの基本原則は以下の記事で全文引用しています。

 

コーポレートガバナンス・コード①〜What's this?〜

crisismanager.hatenablog.com

 

コーポレートガバナンス・コード

www.jpx.co.jp

 

今回取り上げる基本原則4の趣旨をそのまま以下に貼り付けています(長いので、今回はその1として原則4-1から4-3を取り上げます)。

 

* * *

【基本原則4】

上場会社の取締役会は、株主に対する受託者責任・説明責任を踏まえ、会社の持続的成長と中長期的な企業価値の向上を促し、収益力・資本効率等の改善を図るべく、

(1) 企業戦略等の大きな方向性を示すこと
(2) 経営陣幹部による適切なリスクテイクを支える環境整備を行うこと
(3) 独立した客観的な立場から、経営陣(執行役及びいわゆる執行役員を含む)・取締役に対する実効性の高い監督を行うこと

をはじめとする役割・責務を適切に果たすべきである。

こうした役割・責務は、監査役会設置会社(その役割・責務の一部は監査役及び監査役会が担うこととなる)、指名委員会等設置会社、監査等委員会設置会社など、いずれの機関設計を採用する場合にも、等しく適切に果たされるべきである。

 

考え方

 

上場会社は、通常、会社法(平成26年改正後)が規定する機関設計のうち主要な3種類(監査役会設置会社、指名委員会等設置会社、監査等委員会設置会社)のいずれかを選択することとされている。前者(監査役会設置会社)は、取締役会と監査役監査役会に統治機能を担わせる我が国独自の制度である。その制度では、監査役は、取締役・経営陣等の職務執行の監査を行うこととされており、法律に基づく調査権限が付与されている。また、独立性と高度な情報収集能力の双方を確保すべく、監査役(株主総会で選任)の半数以上は社外監査役とし、かつ常勤の監査役を置くこととされている。後者の2つは、取締役会に委員会を設置して一定の役割を担わせることにより監督機能の強化を目指すものであるという点において、諸外国にも類例が見られる制度である。上記の3種類の機関設計のいずれを採用する場合でも、重要なことは、創意工夫を施すことによりそれぞれの機関の機能を実質的かつ十分に発揮させることである。

また、本コードを策定する大きな目的の一つは、上場会社による透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を促すことにあるが、上場会社の意思決定のうちには、外部環境の変化その他の事情により、結果として会社に損害を生じさせることとなるものが無いとは言い切れない。その場合、経営陣・取締役が損害賠償責任を負うか否かの判断に際しては、一般的に、その意思決定の時点における意思決定過程の合理性が重要な考慮要素の一つとなるものと考えられるが、本コードには、ここでいう意思決定過程の合理性を担保することに寄与すると考えられる内容が含まれており、本コードは、上場会社の透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を促す効果を持つこととなるものと期待している。

 

【原則4-1.取締役会の役割・責務(1)】

取締役会は、会社の目指すところ(経営理念等)を確立し、戦略的な方向付けを行うことを主要な役割・責務の一つと捉え、具体的な経営戦略や経営計画等について建設的な議論を行うべきであり、重要な業務執行の決定を行う場合には、上記の戦略的な方向付けを踏まえるべきである。

 

補充原則 

4-1① 取締役会は、取締役会自身として何を判断・決定し、何を経営陣に委ねるのかに関連して、経営陣に対する委任の範囲を明確に定め、その概要を開示すべきである。

 

4-1② 取締役会・経営陣幹部は、中期経営計画も株主に対するコミットメントの一つであるとの認識に立ち、その実現に向けて最善の努力を行うべきである。仮に、中期経営計画が目標未達に終わった場合には、その原因や自社が行った対応の内容を十分に分析し、株主に説明を行うとともに、その分析を次期以降の計画に反映させるべきである。

 

4-1③ 取締役会は、会社の目指すところ(経営理念等)や具体的な経営戦略を踏まえ、最高経営責任者(CEO)等の後継者計画(プランニング)の策定・運用に主体的に関与するとともに、後継者候補の育成が十分な時間と資源をかけて計画的に行われていくよう、適切に監督を行うべきである。

 

【原則4-2.取締役会の役割・責務(2)】

取締役会は、経営陣幹部による適切なリスクテイクを支える環境整備を行うことを主要な役割・責務の一つと捉え、経営陣からの健全な企業家精神に基づく提案を歓迎しつつ、説明責任の確保に向けて、そうした提案について独立した客観的な立場において多角的かつ十分な検討を行うとともに、承認した提案が実行される際には、経営陣幹部の迅速・果断な意思決定を支援すべきである。

また、経営陣の報酬については、中長期的な会社の業績や潜在的リスクを反映させ、健全な企業家精神の発揮に資するようなインセンティブ付けを行うべきである。

 

補充原則

4-2① 取締役会は、経営陣の報酬が持続的な成長に向けた健全なインセンティブとして機能するよう、客観性・透明性ある手続に従い、報酬制度を設計し、具体的な報酬額を決定すべきである。その際、中長期的な業績と連動する報酬の割合や、現金報酬と自社株報酬との割合を適切に設定すべきである。

 

【原則4-3.取締役会の役割・責務(3)】

取締役会は、独立した客観的な立場から、経営陣・取締役に対する実効性の高い監督を行うことを主要な役割・責務の一つと捉え、適切に会社の業績等の評価を行い、その評価を経営陣幹部の人事に適切に反映すべきである。

また、取締役会は、適時かつ正確な情報開示が行われるよう監督を行うとともに、内部統制やリスク管理体制を適切に整備すべきである。

更に、取締役会は、経営陣・支配株主等の関連当事者と会社との間に生じ得る利益相反を適切に管理すべきである。

 

補充原則 

4-3① 取締役会は、経営陣幹部の選任や解任について、会社の業績等の評価を踏まえ、公正かつ透明性の高い手続に従い、適切に実行すべきである。

 

4-3② 取締役会は、CEOの選解任は、会社における最も重要な戦略的意思決定であることを踏まえ、客観性・適時性・透明性ある手続に従い、十分な時間と資源をかけて、資質を備えたCEOを選任すべきである。

 

4-3③ 取締役会は、会社の業績等の適切な評価を踏まえ、CEOがその機能を十分発揮していないと認められる場合に、CEOを解任するための客観性・適時性・透明性ある手続を確立すべきである。

 

4-3④ コンプライアンスや財務報告に係る内部統制や先を見越したリスク管理体制の整備は、適切なリスクテイクの裏付けとなり得るものであるが、取締役会は、これらの体制の適切な構築や、その運用が有効に行われているか否かの監督に重点を置くべきであり、個別の業務執行に係るコンプライアンスの審査に終始すべきではない。

* * *(引用終わり)

f:id:CrisisManager:20200627180920j:plain

 

2 日本の会社法における「取締役会」

 

基本原則4は大上段のプリンシプルとして、上場会社の取締役会が果たすべき事項について、(i)企業戦略等の大きな方向性を示すこと、(ii)経営陣幹部による適切なリスクテイクを支える環境整備を行うこと、及び(iii)独立した客観的な立場から、経営陣(執行役及びいわゆる執行役員を含む)・取締役に対する実効性の高い監督を行うことを例示列挙しています。

 

「考え方」に示されているとおり、会社法上3つの主要な会社の機関設計として、監査役会設置会社、指名委員会等設置会社、監査等委員会設置会社がありますが、いずれの形態を採用しても、上記取締役会の責務は等しく適切に果たされるべきとされています(監査役会設置会社は日本独自の伝統的な形態であるのに対し、指名委員会等設置会社及び監査等委員会設置会社アメリカの株式会社に類似したもので、取締役会の経営者(CEO等)に対する監督権限を強化したモデルとされています。詳細は下記ウェブサイトをご参照ください。)。

 

日本公認会計士協会 監査役会設置会社

jicpa.or.jp

 

日本公認会計士協会 指名委員会等設置会社

jicpa.or.jp

 

日本公認会計士協会 監査等委員会設置会社

jicpa.or.jp

 

基本原則4の「考え方」には、「上場会社の意思決定のうちには、外部環境の変化その他の事情により、結果として会社に損害を生じさせることとなるものが無いとは言い切れない。その場合、経営陣・取締役が損害賠償責任を負うか否かの判断に際しては、一般的に、その意思決定の時点における意思決定過程の合理性が重要な考慮要素の一つとなるものと考えられる」とさらりと書いていますが、これは、取締役が会社に対して善管注意義務民法第644条)及び忠実義務(会社法第355条)を負っており、これらの義務違反により会社に損害を与えてしまった場合には、会社に対して損害賠償義務を負い得るという立場にあり、しかもその判断を普段は同僚の立場にあるメンバーで構成される取締役会が行うということを含意しています。

 

■Money Forward 取締役の法的な責任とは

biz.moneyforward.com

 

同僚の取締役に対して損害賠償請求を行う取締役会メンバーが何らの心理的動揺もなく機械のように判断をできるかというと、おそらくNoだと思います。仲間意識から忖度してしまったり、明日は我が身と考え厳しい判断を躊躇ってしまったりする可能性はゼロではないでしょう。

「本コードには、ここでいう意思決定過程の合理性を担保することに寄与すると考えられる内容が含まれており、本コードは、上場会社の透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を促す効果を持つこととなるものと期待している。」という「考え方」は、取締役会における意思決定過程が合理的なものになるためのヒントが含まれていると考えることができそうです。

 

3 取締役会の果たすべきこと

 

(1) 重要な業務執行の決定

 

会社法第362条第4項は、取締役会が(代表)取締役に委任できず、取締役会で決議しなければならない事項について、以下のとおり定めています。

* * *

会社法

(取締役会の権限等)

第三百六十二条 取締役会は、すべての取締役で組織する。

2 取締役会は、次に掲げる職務を行う。

一 取締役会設置会社の業務執行の決定

二 取締役の職務の執行の監督

三 代表取締役の選定及び解職

3 取締役会は、取締役の中から代表取締役を選定しなければならない。

4 取締役会は、次に掲げる事項その他の重要な業務執行の決定を取締役に委任することができない。

一 重要な財産の処分及び譲受け

二 多額の借財

三 支配人その他の重要な使用人の選任及び解任

四 支店その他の重要な組織の設置、変更及び廃止

五 第六百七十六条第一号に掲げる事項その他の社債を引き受ける者の募集に関する重要な事項として法務省令で定める事項

六 取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務並びに当該株式会社及びその子会社から成る企業集団の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備

七 第四百二十六条第一項の規定による定款の定めに基づく第四百二十三条第一項の責任の免除

5 大会社である取締役会設置会社においては、取締役会は、前項第六号に掲げる事項を決定しなければならない。

* * *(引用終わり)

 

補充原則4-1では、取締役会の主要な役割・責務として「会社の目指すところ(経営理念等)を確立し、戦略的な方向付けを行うこと」を掲げた上で、「重要な業務執行の決定を行う場合には、上記の戦略的な方向付けを踏まえるべき」と述べていますが、ここでいう「重要な業務執行の決定」は、取締役会決議事項を想定していると読めます(「具体的な経営戦略や経営計画等について建設的な議論を行うべき」という点も当然といえば当然やるべきことですが、それを確認的に規定しているものと解釈することができそうです。)。

 

補充原則4-1①は、取締役会決議事項以外の事項のうち、何を経営陣に委ねるか、委任の範囲を明確化すべきという、これも当然やるべきことが確認的に規定されています。

むしろ、補充原則4-1②の「中期経営計画」、補充原則4-1③の「最高経営責任者(CEO)等の後継者計画(プランニング)の策定・運用」は、会社法の規定云々の話ではなく、よりpracticalなTo do事項が定められています。

 

(2) リスクテイクを支える環境整備

 

不祥事対応やコンプライアンスの文脈では、リスクはできる限り低減し、回避すべきものであるという考え方がよく出てきます。

しかし、企業経営においては、企業価値の最大化という究極的な目的に向けて、時に果敢なリスクテイクを行わなければ道が拓けないこともあると思います。

 

例えば、IntelにはかつてEleven Values、Six Valuesという基本的な価値観がありましたが、その価値観の中にRisk Takingが含まれていました(スティーブ・ジョブズスティーブ・ウォズニアックを描いた漫画「スティーブズ」第1巻第1話で、彼らがIntelからDRAMを入手するシーンでもIntelのRisk Takingに関する考え方が鮮烈に紹介されています。)。Intelの現在のHP上では、「Fearless」という項目の中に「We are bold and innovative. We take risks, fail fast, and learn from mistakes to be better, faster, and smarter next time.」と記載されており、Take risksという点が価値として掲げられています。

 

■スティーブズ

ebookjapan.yahoo.co.jp

 

Intel Intel’s Value

www.intel.com

 

原則4-2では、「経営陣幹部による適切なリスクテイクを支える環境整備を行うこと」を取締役会の主要な役割・責務として掲げています。単なるリスクテイクではなく、「適切な」リスクテイク、単なる企業家精神ではなく「健全な」起業家精神と形容詞を伴っている点がポイントで、無謀で無計画なリスクの甘受を推奨しているわけではありません。

経営陣のインセンティブ報酬についても言及していますが、経営陣がどうすれば適切なリスクテイクをできるか、どうすれば健全な企業家精神を発揮できるか報酬制度をきちんと設計することを取締役会に求めていると読めます。補充原則4-2①は「中長期的な業績と連動する報酬の割合や、現金報酬と自社株報酬との割合を適切に設定すべきである」と具体的な話を入れ込んでいますが、これは経営陣が目先のインセンティブに目が眩まないように、というような単純なものではなく、経営陣を「適切な」リスクテイクに導くようなインセンティブ付けの最適バランスを取締役会として熟考しなければならないという難題を提示しているのだと思います。

 

(3) 経営陣へのモニタリング

 

原則4-3では、「経営陣・取締役に対する実効性の高い監督を行うこと」を取締役の主要な役割・責務として掲げています。

具体的には、会社の業績評価をベースとする経営陣の人事選定、経営陣の取締役会への情報開示のモニタリング、内部統制やリスク管理体制の整備、経営陣等と会社間の利益相反の管理など、経営陣が暴走しないようにすべく様々なチェック事項が列挙されています(コンプライアンスや財務報告に係る内部統制やリスク管理体制については補充原則4-3④に詳細が定めてあります)。

 

補充原則4-3②及び4-3③は、2018年6月1日の本コードの改訂で新設された条文であり、CEOの選解任の手続に関する原則を定めています。

取締役会が経営陣を適切にモニタリングするには、経営陣の選解任を含む人事面を握っておく必要があるというのは考えれば分かることですが、その手続を適切に仕組みとして作っておくことが本コードでは重視されているように読めます。

 

経営陣の暴走や現経営陣と他の取締役の軋轢、他の取締役によるクーデターなどが時折ニュースになりますが、そのような報道がなされること自体が企業のレピュテーションにとってマイナスとなることもあり得ます。

そのような他社事例を他山の石にして、自社の取締役会の仕組みは十分にワークしているか、外に見せておかしいと誹られる点がないかを検証することがこのような自体を防ぐ一の矢になると考えます。