企業不正のさばき方

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コーポレートガバナンス・コード⑧〜基本原則4:取締役会等の責務/その2(監査役・監査役会)〜

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1 コーポレートガバナンス・コードの基本原則4の概要

 

コーポレートガバナンス・コードは前文及び5つの基本原則に加えて、各基本原則に紐づく原則及び補充原則から成り立っています。前文及び5つの基本原則は以下の記事で全文引用しています。

 

コーポレートガバナンス・コード①〜What's this?〜

crisismanager.hatenablog.com

 

コーポレートガバナンス・コード

www.jpx.co.jp

 

今回取り上げる基本原則4の趣旨をそのまま以下に貼り付けています(長いので、今回はその2として原則4-4及び原則4-5を取り上げます)。

 

* * *

【原則4-4.監査役及び監査役会の役割・責務】

監査役及び監査役会は、取締役の職務の執行の監査、外部会計監査人の選解任や監査報酬に係る権限の行使などの役割・責務を果たすに当たって、株主に対する受託者責任を踏まえ、独立した客観的な立場において適切な判断を行うべきである。

また、監査役及び監査役会に期待される重要な役割・責務には、業務監査・会計監査をはじめとするいわば「守りの機能」があるが、こうした機能を含め、その役割・責務を十分に果たすためには、自らの守備範囲を過度に狭く捉えることは適切でなく、能動的・積極的に権限を行使し、取締役会においてあるいは経営陣に対して適切に意見を述べるべきである。

 

補充原則

4-4① 監査役会は、会社法により、その半数以上を社外監査役とすること及び常勤の監査役を置くことの双方が求められていることを踏まえ、その役割・責務を十分に果たすとの観点から、前者に由来する強固な独立性と、後者が保有する高度な情報収集力とを有機的に組み合わせて実効性を高めるべきである。また、監査役または監査役会は、社外取締役が、その独立性に影響を受けることなく情報収集力の強化を図ることができるよう、社外取締役との連携を確保すべきである。

 

【原則4-5.取締役・監査役等の受託者責任】

上場会社の取締役・監査役及び経営陣は、それぞれの株主に対する受託者責任を認識し、ステークホルダーとの適切な協働を確保しつつ、会社や株主共同の利益のために行動すべきである。

* * *(引用終わり) 

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2 日本の会社法における「監査役」及び「監査役会

 

基本原則4は「取締役会等の責務」と銘打って、取締役会の役割・責務を中心に説明していますが、「考え方」にて監査役監査役会についても言及しています。

すなわち、監査役会設置会社という日本独自の制度の説明として、「監査役は、取締役・経営陣等の職務執行の監査を行うこととされており法律に基づく調査権限が付与されている。また、独立性と高度な情報収集能力の双方を確保すべく、監査役株主総会で選任)の半数以上は社外監査役とし、かつ常勤の監査役を置くこととされている。」と記載されています。

 

日本の監査役制度の概要は、下記の日本監査役協会のウェブサイトに図解入りで分かりやすく解説されています。

 

■日本監査役協会 日本の監査役制度(図解)

www.kansa.or.jp

 

3 監査役及び監査役会の果たすべきこと

 

会社法第381条から第386条は、監査役の権限及び義務については以下のとおり定めています。

* * *

会社法

監査役の権限)

第三百八十一条 監査役は、取締役(会計参与設置会社にあっては、取締役及び会計参与)の職務の執行を監査する。この場合において、監査役は、法務省令で定めるところにより、監査報告を作成しなければならない。

2 監査役は、いつでも、取締役及び会計参与並びに支配人その他の使用人に対して事業の報告を求め、又は監査役設置会社の業務及び財産の状況の調査をすることができる。

3 監査役は、その職務を行うため必要があるときは、監査役設置会社の子会社に対して事業の報告を求め、又はその子会社の業務及び財産の状況の調査をすることができる。

4 前項の子会社は、正当な理由があるときは、同項の報告又は調査を拒むことができる。

(取締役への報告義務)

第三百八十二条 監査役は、取締役が不正の行為をし、若しくは当該行為をするおそれがあると認めるとき、又は法令若しくは定款に違反する事実若しくは著しく不当な事実があると認めるときは、遅滞なく、その旨を取締役(取締役会設置会社にあっては、取締役会)に報告しなければならない。

(取締役会への出席義務等)

第三百八十三条 監査役は、取締役会に出席し、必要があると認めるときは、意見を述べなければならない。ただし、監査役が二人以上ある場合において、第三百七十三条第一項の規定による特別取締役による議決の定めがあるときは、監査役の互選によって、監査役の中から特に同条第二項の取締役会に出席する監査役を定めることができる。

2 監査役は、前条に規定する場合において、必要があると認めるときは、取締役(第三百六十六条第一項ただし書に規定する場合にあっては、招集権者)に対し、取締役会の招集を請求することができる。

3 前項の規定による請求があった日から五日以内に、その請求があった日から二週間以内の日を取締役会の日とする取締役会の招集の通知が発せられない場合は、その請求をした監査役は、取締役会を招集することができる。

4 前二項の規定は、第三百七十三条第二項の取締役会については、適用しない。

株主総会に対する報告義務)

第三百八十四条 監査役は、取締役が株主総会に提出しようとする議案、書類その他法務省令で定めるものを調査しなければならない。この場合において、法令若しくは定款に違反し、又は著しく不当な事項があると認めるときは、その調査の結果を株主総会に報告しなければならない。

監査役による取締役の行為の差止め)

第三百八十五条 監査役は、取締役が監査役設置会社の目的の範囲外の行為その他法令若しくは定款に違反する行為をし、又はこれらの行為をするおそれがある場合において、当該行為によって当該監査役設置会社に著しい損害が生ずるおそれがあるときは、当該取締役に対し、当該行為をやめることを請求することができる。

2 前項の場合において、裁判所が仮処分をもって同項の取締役に対し、その行為をやめることを命ずるときは、担保を立てさせないものとする。

監査役設置会社と取締役との間の訴えにおける会社の代表等)

第三百八十六条 第三百四十九条第四項、第三百五十三条及び第三百六十四条の規定にかかわらず、次の各号に掲げる場合には、当該各号の訴えについては、監査役監査役設置会社を代表する。

一 監査役設置会社が取締役(取締役であった者を含む。以下この条において同じ。)に対し、又は取締役が監査役設置会社に対して訴えを提起する場合

二 株式交換等完全親会社(第八百四十九条第二項第一号に規定する株式交換等完全親会社をいう。次項第三号において同じ。)である監査役設置会社がその株式交換等完全子会社(第八百四十七条の二第一項に規定する株式交換等完全子会社をいう。次項第三号において同じ。)の取締役、執行役(執行役であった者を含む。以下この条において同じ。)又は清算人(清算人であった者を含む。以下この条において同じ。)の責任(第八百四十七条の二第一項各号に掲げる行為の効力が生じた時までにその原因となった事実が生じたものに限る。)を追及する訴えを提起する場合

三 最終完全親会社等(第八百四十七条の三第一項に規定する最終完全親会社等をいう。次項第四号において同じ。)である監査役設置会社がその完全子会社等(同条第二項第二号に規定する完全子会社等をいい、同条第三項の規定により当該完全子会社等とみなされるものを含む。次項第四号において同じ。)である株式会社の取締役、執行役又は清算人に対して特定責任追及の訴え(同条第一項に規定する特定責任追及の訴えをいう。)を提起する場合

2 第三百四十九条第四項の規定にかかわらず、次に掲げる場合には、監査役監査役設置会社を代表する。

一 監査役設置会社が第八百四十七条第一項、第八百四十七条の二第一項若しくは第三項(同条第四項及び第五項において準用する場合を含む。)又は第八百四十七条の三第一項の規定による請求(取締役の責任を追及する訴えの提起の請求に限る。)を受ける場合

二 監査役設置会社が第八百四十九条第四項の訴訟告知(取締役の責任を追及する訴えに係るものに限る。)並びに第八百五十条第二項の規定による通知及び催告(取締役の責任を追及する訴えに係る訴訟における和解に関するものに限る。)を受ける場合

三 株式交換等完全親会社である監査役設置会社が第八百四十七条第一項の規定による請求(前項第二号に規定する訴えの提起の請求に限る。)をする場合又は第八百四十九条第六項の規定による通知(その株式交換等完全子会社の取締役、執行役又は清算人の責任を追及する訴えに係るものに限る。)を受ける場合

四 最終完全親会社等である監査役設置会社が第八百四十七条第一項の規定による請求(前項第三号に規定する特定責任追及の訴えの提起の請求に限る。)をする場合又は第八百四十九条第七項の規定による通知(その完全子会社等である株式会社の取締役、執行役又は清算人の責任を追及する訴えに係るものに限る。)を受ける場合

* * *(引用終わり)

 

■日本監査役協会 監査役関連法令

www.kansa.or.jp

 

監査役及び監査役会の業務は文字通り業務監査・会計監査等の「監査」がメインですが、原則4-4によると、単に定期的な監査をルーティンとして行うだけでは足りず、「監査役及び監査役会に期待される重要な役割・責務には、業務監査・会計監査をはじめとするいわば『守りの機能』があるが、こうした機能を含め、その役割・責務を十分に果たすためには、自らの守備範囲を過度に狭く捉えることは適切でなく、能動的・積極的に権限を行使し、取締役会においてあるいは経営陣に対して適切に意見を述べるべき」とされています。

 

これは「守り」に見える業務であっても、そのスタンスとしては能動性・積極性が求められるということを述べていると読め、法務等バックオフィスにも通じるキーフレーズであるように思います。

 

4 受託者責任とは何か?

 

原則4-4及び4-5では「受託者責任」という言葉が出てきます。

すなわち、原則4-4では、監査役及び監査役会が「株主に対する受託者責任を踏まえ、独立した客観的な立場において適切な判断を行うべき」と定めており、原則4-5は「上場会社の取締役・監査役及び経営陣は、それぞれの株主に対する受託者責任を認識し、ステークホルダーとの適切な協働を確保しつつ、会社や株主共同の利益のために行動すべき」と定めています。

 

受託者責任とは、英語の「Fiduciary duty」の和訳で、受託者(投資信託や年金の制度設計、資産の運用に携わる者)が受益者に対して果たすべき責任と義務を意味するとされています。狭義では投資信託の世界等で使われている言葉です。

 

野村證券 証券用語解説集:受託者責任

www.nomura.co.jp

 

上記の原則4-4及び4-5は、この考え方を株主と役員(取締役・監査役)との関係に当てはめていると読むことができます。

 

2016年2月26日付け日本経済新聞の記事にて、樋口範雄教授の「依頼者の利益を常に優先する忠実義務や、自分の仕事のプロセスを相手にしっかりと説明する義務を問われる」、「日本人がグローバル化の掛け声の下、信認関係を抜きにした米国流の契約を表面的に受け入れた結果のゆがみが表れてきた」とのコメントが引用されていますが、株主を委託者、役員を受託者と考える受託者責任という考え方は、「会社は誰のものか?」というコーポレートガバナンスの根本的な問いに遡るべき根深い論点と言えそうです。

 

■2016年2月26日付け日本経済新聞 「不祥事なぜ相次ぐ 日本に足りない『受託者責任』」

www.nikkei.com